15年度の目的は、学校教師という職能(学校というシステムにおける生活指導や学習指導の専門的職能)に伴う葛藤・不安に特有な心理構造を、関係性のシステムや社会文化的状況から多元的に分析し、精神的苦悩を抱えている教師たちへの危機介入及び日常的実践参画支援のプログラムを、具体的事例を対象化しながら臨床的に考察していくことであった。 第一の実績は、現職教員5名に、それぞれの世代が抱える不安・葛藤に関するナラティヴ・インタビューを実施し、それをコード化する基礎作業を行ったことである。この基礎作業は、最終年度における研究報告や学会発表で詳しく分析したものを公表する予定である。 第二の実績は、広島県と北海道におけるいくつかの困難を抱えた小学校における参画的教育相談活動(PEC)を実施しながら、教師のメンタルヘルスケアに関わる治療的・支援的実践を行ったことである。そのプロセスも、最終年度の研究報告や学会発表等で公開する予定である。 第三の実績は、これらの取り組みを理論的に支えるために、日本教育学会特別課題研究委員会「教師教育の再編と教育学の課題」プロジェクトに参加し、現代学校教師への聴きとり調査やライフヒストリー研究の方法論的基礎を固めたことである。 第四の実績は、本研究課題の国際的な研究動向における位置づけをさぐるために、臨床教育学の研究チームとともにフィンランドに渡航し、発達援助学(DWR)や教師教育の研究動向を調査したことである。 これらの調査を基に、最終年度は、学校教育相談における危機介入事例(学級崩壊や授業不成立への危機介入や、暴力的児童・生徒への危機介入、不登校児童・生徒事例への危機介入など)が、その思想とともに、教育学に固有な<臨床知>として総括する予定である。
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