本研究の目的は、学校教師という職能(学校というシステムにおける生活指導や学習指導の専門的職能)に伴う葛藤・不安に特有な心理構造を、関係性のシステムや社会文化的状況から多元的に分析し、精神的苦悩を抱えている教師たちへの危機介入及び日常的実践参画支援のプログラムを、具体的事例を臨床的に考察することをとおして、理論的に総括していくことであった。 第一の実績は、現職教員8名に、それぞれの世代が抱える不安・葛藤に関するナラティヴ・インタビューを実施し、理論的にコード化し、それを臨床教育学の視座から概念化したことである。この成果は、本年度以降の全国学会等で公表する予定である。 第二の実績は、広島県と北海道の小学校における参画的教育相談活動(PEC)を実施しながら、日常的実践のなかでの教師の不安や葛藤を分析し、それに基づく治療的・支援的実践を行い、それらを事例ごとにメンタルヘルスケアの視点から概念化したことである。 第三の実績は、これらの取り組みを理論的背景を確かなものにするために、日本教育学会特別課題研究委員会「教師教育の再編と教育学の課題」プロジェクトに参加し、現代学校教師への聴きとり調査やライフヒストリー研究の方法論的基礎とデータ収集を行ったことである。 第四の実績は、本研究課題の国際的な位置づけを探るために、ヴィゴツキーの発達援助学の現代的展開を精査し、国内の臨床教育学の研究チームと、フィンランドとカナダに渡航し、教師のメンタルヘルス支援や教師教育の研究動向を調査できたことである。 これらの調査実績にもとついて、今後は、学校教育相談における危機介入事例を、いくつかの学会・雑誌・紀要論文として公開したい。これらを整理したものを、日本教育学会や、日本生活指導学会等で発表する予定である。
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