今年度は本研究中、「排他的闘争的ナショナリズムと健全な文化教育学との理論上の分岐を解明する」という理論問題を中心に研究してきた。成果として次のものを発表した。 本研究で文化教育学とナショナリズムとの関係を読み解く鍵とする「東洋的ホリズム」の思想構造を、論文「人間形成における『垂直軸』の構造-新たな発達論とカオスの開かれた弁証法として-」(教育思想史学会誌『近代教育フォーラム』12号)において公表した。また「東洋的ホリズム」に依拠して、さまざまな教育事象をモラルの観点から再構造化した4つの論文「性教育はなぜモラル教育の範疇に入れられないのか」「モラルの形成と発達はどのようにかかわるのか」「東洋的なモラル教育の可能性」「モラル教育と『生きる力』はどのような関係にあるのか」を『岩波講座 応用倫理学講義(教育編)』(岩波書店)に執筆した。これは、2004年中に刊行予定である。他に、同様の視点に基づき、「教育用語辞典』(ミネルヴァ書房、2003年)において「教育改革の方向」「科学的教育学の発展」「シュタイナー教育」「新学習指導要領」「偏差値教育の弊害」「楽天的教育観」など20項目を、また『教育実習ガイダンス』(東信堂、2003年)では「高校生について」という視点から執筆をおこなった。さらに、現在、『新・教育原理』(ミネルヴァ書房、2004年刊行予定)において、東洋的ホリズムがもつ存在論的な視点にまで言及した高校教育の在り方を執筆中である。 加えて、本研究のテーマを基盤として博士論文を作成することを広島大学が了承し、平成17年度の完成に向け、現在、研究・執筆を進めている。
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