まず、1920・30年代にわが国の文化教育学を理論的・実践的に主導した入澤宗壽の文化教育学理解について関連文献を中心に明らかにし、彼の思想変遷全体における文化教育学の位置を明確にした。 つぎに、入澤が自らの文化教育学理解の根拠としたドイツの思想家ルドルフ・シュタイナーの教育育思想との関わりを明らかにした。 さらに、入澤以外の文化教育学者(日田権一、小西重直、楢崎浅太郎、乙竹岩造、長田新、海後宗臣ら)の理解状況を分析し、わが国の文化教育学理解の全体的特質を明らかにした。同時に、それらの特質と入澤論との関係を抽出した。 加えて、こうした文化・民族・精神の育成を課題とした文化教育学と当時加速していったナショナリズムとの関係について、シュタイナー思想を自らの国家改造論の柱とした大川周明の思想構造を考察することで明らかにした。 最後に、今日進められている「日本人としての自覚」や「郷土や国を愛する心」の育成について、「精神としての教育」という視点から、排他的闘争的ナショナリズムとは別の、異質な者への共感や愛情を前提とする新たな文化教育学理論を提示した。
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