研究概要 |
1973年に創置された工部大学校では,Henry Dyerを長とするイギリス人教師たちによって,当時の世界でもトップレベルのengineering collegeが設けられ,日本の工業化をリードする人材が育成された。 ところが,明治維新後の日本にはもう一人忘れてはならない人物がいて,日本産業の近代化に対するヘルパーとして活躍した。1868年に来日したドイツ人Gottfried von Wagnerであって,Gottingen大学を卒業後,政治的理由からスイス,フランスで教職に従事し,職を求めて日本にやってきた。佐賀藩で石炭窯を使用した陶器の製造を指導したことが機縁となって明治政府に雇われ,各種の事業に関係した。特に1873年のウィーン万国博で日本人職人の技術指導で力量を発揮し,以後日本の伝統工芸の近代化に貢献した。本研究では,ワグネルを中心にして次の3点の課題を解明した。 (1)ワグネルとその影響を受けた人々の日本伝統工芸近代化に関する思想と実践。 (2)日本の工芸教育の特質,特に中沢岩太による高等レベルの教育を納富介次郎による中等レベルの教育について。 (3)戦前期日本における工芸教育のシステムの構造と第2次大戦後の再編状況。 30年の研究成果は,本科学研究費の出版助成によって近刊予定の『日本工業教育発達史の研究』(風間書房刊)に取り込まれているし,将来的には『日本工芸教育史の研究』として集大成するため鋭意努力している。
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