本研究は、1991年の大学設置基準の大綱化によって一般教育と専門教育の科目区分が廃止されたことが、わが国の高等教育にどのような影響を及ぼしたのかを、とくに、教員編成の視点から明らかにしようとするものである。この研究は、戦後の新制大学とともに出発した一般教育に対して、大学が、カリキュラム上、組織編制上、どのような処遇をしたか、そして、そうした処遇を支えた理念はどのようなものであったかを探り、そこからわが国高等教育における教養教育の存在形態を考察することを目的としている。 本年度は、国立大学に焦点をあて、教養部がどのような組織編制で形成され、それが91年の大綱化によってどのように解体したのかを教員編成の点から分析した。その結果、第1に、国立大学の教養部は、特定の専門学部が一般教育と専門教育との両方に責任をもつといった過重負担の構造に起因して誕生したが、教養部が一般教育のみを担当する教員組織となったことが、結局は、一般教育軽視につながり、91年の大綱化は長期にわたる構造的問題の解消としての位置づけをもつこと、第2に、教養部の解体は、専門学部への教員の配属を通じて、新制大学発足時の構造に戻ったことが明らかになった。 また、日本がモデルとしたアメリカの一般教育の原点にある教養教育の理念をさぐり、それが現在の高等教育の形態においてそのような状況にあるかを分析した。これは、日本の問題を考えるときの鏡としての役割を果たす研究であるが、分析の結果、第1に、アメリカでは教養教育はそれに価値を見出す理念的な伝統をもっていること、しかし、第2に、現在の高等教育の構造上、それを実現することは容易ではないため、構造と理念との間にどのように妥協点を見出すかが課題となり、それが度重なる改革となっていることが明らかになった。 これらを踏まえ来年度は、私立大学や公立大学を視野にいれて分析を深める予定である。
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