民族的共生のメカニズムに関する文化人類学的研究

2002 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 14510329
• 研究機関: 北海道大学
• 研究代表者: 煎本 孝 北海道大学, 大学院・文学研究科, 教授 (50124227)
• キーワード: 民族 / 共生 / 紛争解決 / 文化復興運動 / 民族性 / エスニシティ / 帰属性 / アイデンティティ

研究概要

近年、世界各地で発生する民族紛争とその解決に向けた研究が重要な研究動向の一つとなってきている。本研究では、紛争解決に大きな役割をはたすと考えられる民族的共生のメカニズムを文化人類学的視点から実証的、科学的に検証し、明らかにしようとするものである。
このため、アイヌの文化復興運動、政治-経済的要求と法的解決、さらにその後の運動の展開に見られる民族的共生の「語り」と実践について、フィールド調査を通した祭礼への参加、観察、および詳細なインタヴィウー調査を行い、カメラ、VTR、テープレコーダによる記録、整理、分析を行った。
特に今年度はアイヌの文化復興という点からアイヌ式葬儀の復興の過程の記録と分析を行った。
4日間に渡る葬儀は、1日目の自宅における小屋がけ、死装束・墓標・副葬品の製作、湯かん、アイヌ語によるカムイノミ(神々への祈り)と通夜、2日目のカムイノミと別れの言葉、ゴサによる遺体の梱包、町の生活センターへの移動・そこでの仏式葬儀と通夜、3日目の生活センターにおける僧侶による読経、弔辞、出棺、そして墓地におけるアイヌ式葬儀による埋葬、再び生活センターでの僧侶による法要、そして自宅近くの河原でのアイヌ式葬儀にもとづく小屋の焼却、自宅でのカムイノミ、そして4日目の自宅におけるカムイノミがとり行われた。アイヌ式葬儀ではアイヌ語・アイヌ文化の研究者であり、かつそれらの数少ない伝承者となっている一人の和人が祭主となった。アイヌ語によるカムイノミ、葬儀の式次第が彼の指導のもとにアイヌの人々と一緒にとり行われ、アイヌ語・アイヌ文化を知らない今日の若いアイヌの人々がそれらを学んだ。
葬儀の過程、および葬儀をめぐるさまざまな語りの分析を通して、アイヌ式葬儀の復興、および仏式とアイヌ式との併存の文化的、社会的メカニズムを明らかにした。

研究成果

• [文献書誌] 煎本 孝: "東北アジアの自然、文化、言語"東北アジア諸民族の文化動態. 1-7 (2002)
• [文献書誌] 煎本 孝: "モンゴル・シャマニズムの文化人類学的分析-内モンゴル,ホルチン・ボのシャマニズムにおける歴史意識と宇宙論的秩序"東北アジア諸民族の文化動態. 357-440 (2002)
• [文献書誌] 煎本 孝: "東北アジア諸民族の文化動態"東北アジア諸民族の文化動態. 545-550 (2002)
• [文献書誌] 煎本 孝: "文化-言語復興運動とアイデンティティ"消滅に瀕した言語. 3. 50 (2002)
• [文献書誌] Irimoto, Takashi: "Cultural Identity and the Revival of Minority and Regional Language"Conference Handbook on Endangered Language. 3. 51 (2002)
• [文献書誌] Irimoto, Takashi: "Creation of the Marimo Festival"Senri Ethnological Studies. (発表予定). (2003)
• [文献書誌] Irimoto, Takashi: "Anthropology of Ethnicity and Identity"Senri Ethnological Studies. (発表予定). (2003)
• [文献書誌] Irimoto, Takashi: "Preface"Senri Ethnological Studies. (発表予定). (2003)
• [文献書誌] Irimoto, Takashi: "The Eternal Cycle"Senri Ethnological Reports. (発表予定). (2003)
• [文献書誌] 煎本 孝: "東北アジア諸民族の文化動態"北海道大学図書刊行会. 568 (2002)
• [文献書誌] 煎本 孝: "カナダ・インディアンの世界から"福音館文庫. 280 (2002)