予定していた3カ所の調査対象の村落のうち、全てにおいて調査を行い、その結果次のことが明らかになった。 1.福島県会津地方の大規模水田耕作地帯、山口県瀬戸内地方の中規模水田耕作地帯、新潟県東蒲原郡の中山間地における農山村という農業経営の規模、経営内容、また都市への接近の程度、さらには気候風土においても大きく異なる3カ所の農村において、いずれも専業農家においてさえ、農業経営のみで生計を立てることが困難な状態であった。その困難さは近い将来における農業後継書の確保を困難にしていた。しかも、其れが必ずしも農家が耕地を手放すこと、大規模農家における農地の集積にはつながらないところに、日本の農業の将来的困難が見いだせた。 2.それにもかかわらず、各農家が農地を手放さない傾向は1980年代とほとんど変化がない。むしろ農地を手放すのは「家」の消失につながるとみなし、現実に「家」の存続が困難な農家が農地を手放す傾向があるため、農村の人々の間では一層、そうしたイメージが強くなっている。その一方で、1999年の農業基本法の改正にみられるように、戦後の農地改革以降における日本の農業の基本的な制度が変化していくことについて、農家の人々は完全に理解し始めた。 3.「家」の観念を、現在の世帯主はまだ維持しているが、その子どもの世代においては、ほぼ完全に消失している。ただし、親の扶養義務についての認識は強い。 4.「家」観念の弱化は明白である一方、自分たちの村落共同体の結束や、共同体としての機能を保持しようとする傾向は1980年代とそれほど変化していないか、むしろ強化されている。また、国の農業政策は其れを可能にしているとさえいえる。
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