本研究は、八重山地方の人々の世界観を認識人類学的視点から明らかにするとともに、日々の活動の実態という意味での生態と世界観との関係を解明することを目的とするものである。本年度ではとくに、自然観と伝統的生業に焦点を当て、沖縄県八重山地方を対象にして一般的情報資料を収集すると同時に、平成15年1月14日〜1月24日にかけて波照間島において集中的実地調査を行った。実地調査は、京都大学人間・環境学研究科大学院生を研究協力者として行い、とくに以下の基礎的情報資料を収集、整理し、島の人々の生態と自然認識の実態について分析を進めた。 (1)波照間島における自然環境の実態の把握:植物相、動物相(陸上、海棲)、地形、季節変化、気象条件などに関する情報資料。 (2)個々の植物、動物、地形、季節、気象、時間などに関する波照間島方言による語彙の収集とそれぞれの用語の語義、語源に関する情報。 (3)植物と動物については、有用性、利用方法などに関する情報。 (4)地形に関しては、利用のされ方、評価、生計活動との関係などについての情報。 (5)季節、気象、時間などの語彙と生計活動との関係についての情報。 (6)漁撈活動に関する、方法、年間暦、活動空間、自然との関係についての情報。 (7)民話や古謡、年中行事や儀礼に関する情報資料 伝統文化を伝承する古老がまだ健在ではあった。しかし、土地改良、圃場整備などによるサトウキビ栽培の効率化、漁撈活動の専業化、生活環境の整備などが進められる中で、生態と世界観との関係は変容しつつあり、伝統文化の保存・伝承が大きな問題となっていることが明らかとなった。
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