本研究は、八重山地方の人々の世界観を認識人類学的視点から明らかにするとともに、日々の活動の実態という意味での生態と世界観との関係を解明することを目的とするものである。本年では、八重山地方の波照間島において、京都大学大学院人間・環境学研究科大学院生高橋そよ氏等を研究協力者として、神行事であるプーリン(豊年祭)の実施時期に合わせ、7月に延べ24日間の集中的実地調査を行った。実地調査にあたっては、プーリンの参与観察に焦点を当てながら、以下の諸点に関する情報資料を収集し、島の人々の信仰の実態について分析を進めた。 (1)平成14年度に収集した自然認識と伝統的生業についての補足調査を行い、資料の充実を図る。 (2)動植物、地形、気象などの自然、神や超自然的存在に関する民話、言い伝え、神話などの民間伝承についての聞き取りによる情報資料の収集。 (3)島の年中行事や儀礼について、とくに、祭祀組織の変化、実施方法の変遷などに焦点を当てながら、年中行事、儀礼の動態に関する情報資料の収集。 (4)波照間島におけるもっとも重要な年中儀礼であるプーリン(豊年祭)を対象にした参与観察をもとにした、儀礼の場における神々の表象に関する実証的資料の収集。 各種の神行事の実施にみられるように、島の人々の生活において伝統的な信仰は現在でも重要な意味を保持する。その一方で、神行事を担ってきたツカサやパナヌファのなり手が少ないといった、神役の継承の問題は神行事実施上大きな問題ともなっている。このような現状の中で、伝統行事の実施は波照間島民としてのアイデンティティとも深く関わり、これを維持すべく集落ごとにさまざまな調整が計られている実態が明らかとなった。
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