本年度は、本研究計画の最終年度であり、現地での追調査を含めてとりまとめを実施した。本研究で扱ったシャンによるシャン・エスニシティの表象は、「伝統文化保存」「組織化」「ビルマ文化との差異化」などの脈絡で現出している。またそれらは、ビルマによる「シャン」の表象とは対照的に、周辺的なものではなく、中心的自立的なものとして構築あるいは「再」構築(歴史認識を前提にすれば「再」構築である)されようとしている。「シャン」の実像と虚像のバリエーションは、その表裏一体であるふたつの表象の間に展開しているのである。表象の場では、シャン族であるというアイデンティティと、「シャン」の表象を操作できることとは必ずしも対応しない場合もある。シャン族出自と自己認識する人々でも、特にカチン州に住むビルマ化がより進行したシャン族の人々には「シャン」の表象を自立的に操作する環境にはない。換言すれば、求心的なビルマ文化の洗礼をどれだけ長くそして深く受けたか、そして受容したかによって、「シャン」の表象への姿勢が、能動的か受動的かの度合いとして異なってくるのである。他方、北部シャン州のシャン族は、ビルマによる「シャン」の表象と差異化し、「シャン」と連関する諸表象を操作することによって、多民族国家の政治的弱者としてのシャン族であるというアイデンティティの維持を試みているのである。シャン・エスニシティの動態の行方がそこにあることを、本研究では、蒐集した一次資料を根拠に人類学的手法を用いて明らかにし、成果報告書をまとめた。
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