研究課題
基盤研究(C)
本研究は、中国民衆の戦争体験のオーラルヒストリを記録し体系的に分析するものである。文化人類学者である私は、旧日本軍731部隊による細菌戦被害地の一つ中国湖南省常徳地域で、細菌戦の戦争記憶に関する実地調査を実施した。科研費をいただいた3年間、毎年1回ほど現地へ赴き、主として被害者や遺族を訪問し、彼らに対する聞き取りをしてきた。それと同時に、歴史的資料を収集したり、被害地の市街区や村々を踏査したりしてきた。本研究は、次のような四つの視点が貫いた。第一に、個々人の回想から地域における細菌戦被害の全貌へ近づくことである。人びとの回想や語りから、彼らの目線に沿って、常徳城内や周辺農村における被害の様相を再構成し、普段の社会生活の場を乗っ取って猛威を振るったペストの伝播ルートを分析する。第二に、戦争被害という出来事をその本来の社会的文化的文脈において理解し、戦争破壊と社会文化との相互作用を分析することである。細菌戦被害発生地である常徳の地理や歴史を把握するうえ、細菌戦被害の広がりの媒介となった社会生活の形態を、町と農村の社会的経済的構造や、行政組織、民衆の親族組織の父系血縁集団宗族などの側面から理解を深めた。また、巫俗などの土俗信仰や、他界と再生、土葬、身体観などを含める民衆の世界観が、近代西洋医学に根ざした防疫工作と真正面から衝突する様子を再構成し、ペストという触媒によって引き起こした連鎖的社会破壊の仕組みを分析した。第三に、社会的文化的背景に目を向けながらも、個々の人と向き合うことである。細菌戦被害が地域社会や被害者たちのその後の人生や生活に与えた影響を考察し、「少年喪父、中年喪偶、老年喪子」などの「人生の三大不幸」を経験したさまざまな被害者たちの証言を収集した。第四に、戦争記憶の特徴や保有の有り様を考察することである。具体的に、細菌戦被害記憶と旧日本軍による他の被害に関する記憶との関連性を考察し、民謡や絵画などのかたちに表現された戦争記憶を分析した。
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