この研究は、民族誌写真を基礎資料とし、そこから民族学的情報を得ようとするもので、対象となる時期は明治年間を中心とする。研究の手順は、写真に示されている民具類や人びとの行動を当時の社会の文脈の中で説明すること。つぎにその背後にある調査者(撮影者)の意図を明確化することにより、調査者のアイヌ民族観に接近しようとする。 この方法論に従って、今年度はとくにつぎの作業をおこなった。 (1)アメリカ合衆国フィラデルフィア市にあるペンシルベニア大学が所蔵するハイラム・ヒラーが撮影あるいは収集した写真及びガラス・スライドの複写をおこなった。この写真は、1910年に北海道を訪問しアイヌ資料を収集したヒラーが、平取、鵡川、及び白老で撮影したものである。リバーサル撮影及びデジタル撮影をおこなった。このなかには、これまで知られていない画像のものも含まれ、それらはヒラー自らが撮影したものである可能性が高く、今後の分析が期待されるものである。 (2)ヒラー撮影・収集写真について、撮影地の同定を白老町、平取町でおこなった。また、ガラス・スライドについては、表裏を判定する必要が生じたため、ほかの写真類や器物、民族誌記述とも対比しつつ、この作業をおこなった。 このほか、過去3年間の成果の一部を利用して、北海道開拓記念館および国立民族学博物館において、展示会「見誤った伝統?-アイヌの機織り技術」展(民博では「研究者が見誤った伝統?」展を開催した(吉本忍教授との共同企画)。
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