本研究は、1273年の九条忠家の関白就任によってようやく摂関家としての家格を確保するに至った九条家に注目し、家格の秩序によって構成されていた中世貴族社会における家の成立とその継承のありかたを解明しようとするものである。当該研究期間の主な成果は以下の通りである。 1、上記課題に関する未公刊史料の調査・収集・整理 (1)宮内庁書陵部に架蔵されている九条家伝来の大量の記録・古文書群について、目録の作成と調査を行い、上記課題に関する史料を収集した。 (2)『文永代始公事抄』や『仁部記』など、上記課題の関する鎌倉時代の日記類の翻刻作業を進めた。 2、収集史料の分析と検討 (1)九条忠家やその子忠教らが作成した文書の分析を進め、摂関への補任を求める彼らの主張の前提に、摂関に相応しい功績を挙げた藤原兼実にはじまる九条流の「家嫡」であるという意識が存することを確認した。 (2)鎌倉時代中・後期における貴族の昇進争いに注目し、昇進を決定する要因を抽出するとともに、当該期の貴族社会においては、各家の家格に応じた宮職に就くことが家の継承もしくは家の存続の前提の一つと意識されていたことを確認した。 (3)以上の二点から、官職という公的な制度と家という私的な制度との相互依存性が中世貴族社会の特質の一つであるという見通しをえた。 3、研究成果の発表 以上の成果を踏まえ、2004年4月、北大中世史研究会において「九条忠教の苦闘」と題する報告をおこない、2005年3月発行の本研究の研究成果報告書に「摂関家九条家における嫡流意識と家格の論理」と「宮内庁書陵部架蔵九条家本目録」を掲載した。
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