標記題目による研究初年度は、『陸奥話記』『奥州後三年記』の諸写本収集に力点を置いた研究活動を行い、それぞれ『話記』19本、『後三年記』16本について写本の写真を入手した。両本の書誌学的研究を進めるには未だ十分な条件が整っていないが、写本本文の校合や跋文、書き入れの考察などにより今後研究を展開していくうえでの幾つかの手がかりを得ることができた。(1)現存諸本の多くは幕府や水戸藩など幕藩権力下での修史事業と深い関わりをもって成立したらしいこと、(2)『話記』冒頭部分の"改〓"はその頃よりも相当前に行われていたらしいこと、(3)現在東京国立博物館所蔵『後三年合戦絵詞』で欠けている『後三年記』冒頭部分の文章はそうした修史関連事業の過程で新たに見出されたものである可能性があること、などが現時点での管見である。現在のところ、『話記』冒頭部分の"改〓"の時期とその具体的事情、『後三年記』冒頭部分の出所とその史料的性格の究明、それに尊経閣文庫蔵(一)本『話記』祖本(二条康道文庫本)の伝来の問題などが目下の関心となっている。 関連の研究成果としては、中世安藤(東)氏関係諸系図の考察を通じて奥六郡安倍氏の祖先系譜について論じた論考1点があり、近刊が予定されている論文集に掲載するため書肆(吉川弘文館)に入稿した。
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