引き続き研究課題に関する資料を収集しつつ、地域社会をめぐるいくつかの具体的課題について検討した。資料の読み込みを進めながら、順次まとまったものについて研究成果を発表した。 1.新潟県南魚沼郡六日町に残されていた佐藤良太郎関係文書を読み進み、明治初年から30年代までの足跡を丹念に検討した。その結果村長時代、県会議員時代をへて、足尾鉱毒救済運動に献身するそれぞれの時期において、自治と自律を唱えてみずから先頭に立って実践し、また田中正造と直接接触する中で鉱毒問題を通して人権を守ることの大切さを伝えようとしていたことを明かにした。地方政治の一主体としての佐藤良太郎の事例を通して、明治前期における地域自治をめぐる実態的かつ理念的枠組みを示している。 2.東北アジアの百年というスパンのなかで見渡すと、この十数年の環日本海地域交流の歩みは急激であり、それ以前とは背景がまったく異なっている。この変化の内実を振り返るために、先ず環日本海ブームの背景となった諸条件について、そもそも日本海になぜ環がついたのか、その意味はどこにあったかを探った。第二に、一九九〇年代になぜ環日本海がもてはやされたかをいくつかの側面についてたどり、それがどのような意義を持ったかについて整理した。第三に、実態としての「環日本海経済圏」について、新潟の事例を中心に検討した。それらの結果として、環海に暮らす地域住民の交流を中心に置いて、経済や文化・歴史など様々の問題に取り組むことにより、着実に協生の場を拡大していくことが求められていることを展望した。
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