今年度は次の調査・研究を実施した。(ア)本研究では19世紀から20世紀日本全国において広範に建立された記念碑の多様性と、その建立と背景、その歴史的意義を解明することを目的としているが、建立された記念碑の実態調査を愛知県をフィールドとしておこなった。戦前以来の市町村史・記念碑調査書などを当面は網羅的に調べ、愛知県内記念碑データの作成を始めた。(イ)本研究では日本の記念碑文化を他の社会・民族の記念碑・石造物と比較研究することを目的としている。今年度は中国(上海・南京・安徽省・広州など)において石碑・石造物の調査を実施し、とくに明代から中華民国時代にかけて建立された「牌坊」(Memorial Archways)、アヘン戦争関係及び辛亥革命関係の記念碑を実見し、今後の比較研究のための多くの資料を得ることができた。またこの調査では中国における文化財保存に関しての現状と問題点、特に文化大革命によって破壊された文化財の修復状況の一端、歴史的遺蹟の顕彰が現代中国ナショナリズムの昂揚のなかで政策的に押し進められていることも確認することができた。(ウ)明治末から大正期に行われた明治天皇行幸遺蹟の保存、記念碑の建立に関する調査を愛知県内において実施し、"聖蹟"の成立のプロセスを検討し、その成果を「天皇と行幸」と題する論文のなかで発表した。(エ)19世紀に形成されてくる日本の記念碑文化の思想史的背景を考えるために、「膨張する皇国・開化する皇国」という論文で、この時期の国家・民族意識を検討した。
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