1696年夏に発生した安龍福事件とその後に生じた紛糾、およびその収拾過程について検討した。 安龍福事件については、とりわけ韓国側における歴史的評価について再検討を行った。そのため当該事件に関わる韓国側史料・研究文献の収集を進め、分析を行った。そして鳥取藩政史料・対馬藩政史料および朝鮮王朝側史料の突き合わせを行って史実の再評価に努めた。 また安龍福事件後に生じた日朝間の紛糾については、いわゆる東平行一件とも呼べる倭館闌出事件について検討した。この事件については、先行研究がほぼ存在しないので、史実の確定と評価を行うために、国立公文書館所蔵史料および長崎県立対馬歴史民俗資料館所蔵史料との突き合わせ作業を行って、事件概要の具体的な再現に努めた。また、紛糾のそもそもの原因について究明を進め、おおむね1696年1月に幕府決定をみた竹島渡海禁令の朝鮮政府への伝達の仕方のところに問題があるという結論に達した。 なお、元禄竹嶋一件に関わっては、当該事件をほぼ同時代に記録した史料としての『竹嶋紀事』があるにもかかわらず、十分に活用されてこなかった。そのため既知の活字史料を恣意的に解釈する傾きが多かったのに対し、未翻刻の関連史料を収集し、『竹嶋紀事』本文および綱文の翻刻・校訂作業を最終的に仕上げることにより、当該史料の活用に道を開くべく作業を進めた。
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