課題研究の最終年度の本年度は、当初の研究計画を確認し、最終報告の準備とその具体的作業の遂行に務めた。今回の研究目的は(1)『続日本後紀』の写本集成と本文校定、(2)「承和」期にかかわる文献資史料や出土文字史料の収集、(3)『続日本後紀』記載事象をはじめとした9世紀の歴史事象の個別的研究とその歴史的位置づけであったが、(1)について昨年度までに主要な諸写本の調査と複写史料の収集は終了しているので、今年度は若干の補足的調査を実施するとともに、写本間の異動などについて検討を試みている。しかし史料架蔵機関の意向や時間的な問題もあって、いまだ十二分の段階にいたっていない。(2)についても初年度以来、大学院生の協力などで実施してきたが、摂関期の古記録調査が不十分であったため、その補充調査をおこなった。そのため本来予定していた資料入力について、学生アルバイトを雇用せざるをえなくなり、当初の予算とは若干の変動をせざるをえなくなった。しかしこの措置によって、(2)に関してはほぼ完了できたといえる。(3)については、今年度、時間と予算の許す範囲内で、資料調査と現地調査を実施した。9世紀は、奈良時代の国家的仏教が山岳地へ修行場を移行した結果、仏教の密教化が進められる時期とされるが、その状況を天台宗延暦寺系の肥後国池辺寺の調査などで確認するとともに、『続日本後紀』に焼失・再建記事がみえる武蔵国分寺について調査した。武蔵国分寺跡では過去の埋蔵文化財調査の知見と異なる遺存状況が昨年確認され、その結果によっては、過去の『続日本後紀』記事の再検討が必要と考えたからである。また、9世紀は駅伝制度の転換期とされるが、その具体的状況を考えるために、『続日本後紀』に記載のある播磨国佐突駅とその周辺の現地調査をおこなった。そのほか、『続日本後紀』の精読により、幾つかの新たな研究課題が設定できたが、これらについては成稿化をめざして準備しているところである。
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