本研究は、申請者がこれまでの研究で明らかにしてきた、古代社会の転換期としての「承和期」について、当該期の根本史料である『続日本後紀』の史料学的研究の基盤を確立するとともに、当該期にかかわる後世の史料や出土文字資料などにみえる史料の収集をとおして、古代社会の転換期としての「承和期」の実像を、より豊かにしていくことをめざしたのものである。このような課題を追究するため、(1)『続日本後紀』の諸写本の収集、諸写本間の検討による写本系統の確立と、善本を核にした本文校訂、(2)後世の記録・編纂物・儀式書などにみえる当該期に関係した史料の収集、(3)出土文字資料など9世紀の支配や社会生活にかかわる関係史料の収集をおこなうとともに、(4)『続日本後紀』の記事自体についてもその内容の吟味や事実関係の考察の深化などにつとめた。(1)に関しては、国立公文書館・国会図書館・尊経閣文庫・静嘉堂文庫・京都大学付属図書館・国文学資料館館などで『続日本後紀』写本の調査・複写などを実施し、今後の校合作業や書写系統に関する研究の基盤を確立することにつとめたが、一部機関で写真複写がみとめられず、今後の研究遂行のうえで若干の懸念となっている。(2)と(3)に関しては、収集史資料を整理・作成し研究成果報告書に「『承和期』編年史料集成(稿)」として掲載した。紙数の関係で一部割愛せざるをえない資料群もあったが、基本的な目的は達成できたと考える。今後は、さらに収集範囲を拡大して内容の充実をはかりたい。(4)の「承和期」の実像をより豊かなものにするという点では、後世とりわけ10世紀前半代における承和期を聖代とみる思潮の確認や、承和期における瀬戸内海での海賊問題、駅制・駅路の改編問題、対外関係などの諸事象について内容的な深化をはかることができた。このほか、国分寺と国司執行法会の関係、大宰府における官制の改編や、氏族の自己認識の変化などを現在検討中である。
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