本研究の当該期間における成果の概要は下記の通りである。 I戦前期における日本の暗号解読能力の評価 (1)アメリカ国務省の電報については、ほぼ100%近い解読力を有していたと考えられる。現在まだまだ推論の域を出ないが、最高強度のStrip Cipherについても実用レベルで解読文を運用できていたと思われる。このことは関係者の証言、残存する解読電報から推定はなされていた。しかし、本研究によってアメリカ国務省の暗号運用の実態がある程度解明されたことで、証言の有効性と限界が明らかにされた。さらに、駐日大使館とワシントンの国務省との間の通信状況のかなりの部分を明らかとし、これに日本側解読文のデータを照らし合わせることで、日本の暗号解読能力の実態を可能な限り実証的に査定することができた。このような基礎作業の結果、日本が入手できた筈の電報が具体的に明らかとなったため、それらが与えた外交政策決定への影響を考慮しうる研究段階に到達できたと思われる。 (2)海軍関係者の日記に多く記録され外交政策決定に影響を与えていたと推測されるソ連外務人民委員会の暗号電報(哈爾濱情報)については、その解読担当が外務省であったことが明らかとなった。今後の研究の進展が期待される。 (3)イギリスの外交電報の調査の結果、軍事情報を含め相当な情報が在外公館に伝えられていたことが明らかとなった。このため、今後は暗号の難易度を考慮に入れて、日本の解読の程度と外交政策決定に与えた影響を査定する段階に達する事が出来た状況である。 IIアメリカ側の日本外務省電の解読文(マジック情報) 日本の外交電報の多くが失われている現在、日本外交の史料としても意義を持っている。出版されているものの目録化作業が進展中である。
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