1、これまで前近代での債務契約においても受領書として機能すると説明されてきた請取状様式文書が、中世貸借契約では借用状として機能すること、中世において請取状がものの受領書にもなれば、反対の借用書にも機能しており、中世における請取・請・納などの用語は両義性をもつこと。こうした性格は、古代の請納文や返抄にもみられ、古代中世社会に共通すること。東大寺図書館所蔵の未成巻文書の調査から、債務契約の解消の際に提出される返抄が三つの類型があること。などの諸点について、論文「中世請取状と貸借関係」(『史学雑誌』一一三一二 二〇〇四・二)として発表することができた。これにより、古代中世における債務契約は、近代的所有における債務契約とは異なる時代的特質をもち、独自の原理が機能していたことはほぼあきらかになってきた。 2、東大寺図書館所蔵の未成巻文書のなかにある「請取状」と一括された文書集合については、中世後期の段銭請取状や、平安〜天正までの請取状・借用状・切符・下書・返抄などの文書様式が一括されていることが、保存管理状態の調査から判明しつつある。この調査を継続すれば、これらの文書集合が中世人の文書集合を示すものであり、中世人が請取状と呼んでいた文書様式がどのようなものであるのか、また中世人が「請取」と呼ぶ行動がどのような行為をさすものかを具体的に明らかにすることができる可能性が見出せた。文書集合論による古文書学の必要性が判明しつつある
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