1、東アジア開港場間の社会的・経済的ネットワークの実態を解明するため、本年度は長崎を調査対象に採り上げた。近世の海禁体制から近代の自由貿易体制への転換期における華僑ネットワークの変化を明らかにするため、長崎県立図書館所蔵の唐館貿易の衰退に関する一次資料を調査し、幕末から維新期にかけて、華僑ネットワークが、どのように変化したのか、について調査した。その結果、幕末から維新期にかけて、従来の唐館貿易のシステムが列強の圧力によって崩壊する過程が外交史的に解明された。 また、長崎大学に所蔵される幕末明治古写真約5000枚を調査し、欧米系外国人の対日関心のあり方にかんする図像的観点からの分析を行うための基礎データを収集した。その結果、(1)撮影地は遊歩地域を超えて全国に及んでいるが、圧倒的に開港場に集中しており、東京、大阪、京都も少ない、(2)長期にわたって同一地点から撮影されるため、開港場の都市形成のプロセスを明らかにすることができる、などの興味深い特徴を明らかにすることができた。 2、開港場の租界経営の実態を解明するため、上海を対象に、共同租界の実態および日本の関与に関する資料の調査研究を行った。上海市档案館において、工部局資料を調査し、主要史料のピックアップリストを作成した。また、同館で刊行した工部局董事会議事録を入手し、議事リストの作成を開始した。また、上海市図書館所蔵の日本語文献リストを入手し、本年夏に公開される日本語文献の調査のための基礎作業を行った。
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