研究概要 |
本年度は,当初の計画通り,7月23日から8月16日にかけてイェニセイ河上・中流域にあるロシア連邦内のトゥバ共和国のキジル市郷土博物館及びハカス共和国のアバカン市郷土博物館及びミヌシンスク市郷土博物館を訪れ,古代テュルク・ルーン文字銘文の現地調査及び銘文の所蔵状況に関する聞き取り調査を実施した。渡航前にはトゥヴァ国立大学のドルジュ副学長から現地での滞在許可と上記博物館での調査協力を約束するお手紙をいただき,またハカス共和国のミヌシンスク市郷土博物館館長からも同博物館での調査許可をいただいていたこともあり,現地では博物館員の献身的な協力が得られ,トラブルもなく調査研究に従事することができた。総発見数約155点ほどの銘文のうち,今回は上記の博物館に所蔵されている大小約30点の銘文について,先行の研究者による銘文名や分類番号と照合しつつ,字句の刻まれた石材の寸法の測量や,文字の配置や形状に注意しつつ,調査を行った。その際,記録のために,不明もしくは解読困難な文字についてはビデオや写真で撮影し,特に不明な部分は拓本によっても採択作業を行いつつ調査を進めた。この結果,これまで知られていない銘文が1点新たに見つかったこと,また行方不明として放置されていた銘文1点も明らかになったことに加え,D. D.ワシリエフ及びコルムシンといったロシア人研究者によって公表され,通説として受け入れられてきた読みを訂正せざるを得ない字句を含む銘文があることが確認されたことは,今回の調査における最大の収穫である。同時に,今回の調査において,新たな読みを裏付けるビデオ資料や写真,さらには一部の拓本資料が我が国に将来できたことは今後の,同地域の銘文に関する文献学的・歴史学的研究にとって大きな意味を持ち,国際的な情報を発信する際のデータベースを構築する上での基盤資料と位置づけることができよう。
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