課題とする大元ウルス(元朝)の中国統治政策について、本研究は高官任命に関する文書を収集して、その形式を通して見える中枢部の人事制度の分析に焦点を当てた。また帝室の一分枝たる鎮南王家の江南(南中国)および中国統治体制における地位についての見通しを立てることも計画した。 その結果、前者に関しては、『憲臺通紀』『南臺備要』の調査より判明した高官任命に関する、ユーラシア各地のモンゴル政権に共通する文書形式を「大元ウルス高官佳命命令文」と命名し、言語・文体、書式、題名等による分類、特徴・性格を分析し、今後の研究の方向性を導き出した。 上記の成果を、平成14年8月12日〜14に中華人民共和国・南京大学で開催されたInternational Conference on Mongol-Yuan Studiesにおいて国際的に発表した。それを踏まえ『大阪外国語大学論集』第29号(平成15年9月刊)に「大元ウルス高官任命命令文研究序説」として発表した。さらに、その後の研究成果を加えて平成15年11月15日に大阪国際大学で開催された日本モンゴル学会2003年度秋季大会において、「『元典章』等にのこされたモンゴル高官任命書-モンゴル時代命令文研究の一環として-」と題して発表し、また京都大学人文科学研究所・東方学研究部共同研究班「中国近世法制資料の研究」において、『元典章』に載る大元ウルス高官任命命令文」として、新たな成果を発表した。 後者に関しては、漢文・ペルシア文の諸史料から検討し、江南統治において当王家が有する地位は、従来の理解とは異なり、きわめて高いことが判明した。年度当初の計画での予想以上に、研究成果のもたらす範囲が大元ウルスに限らず、関連諸政権の王宮(オルド)に関する先行研究をも合わせて調査する必要があることが分かり、別個に新たな研究計画を立て、成果を還元するべきものと判断した。
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