本年度の研究目標としては、(A)史料の収集整理に努めること、(B)収集史料の分析と解析、(C)新視角の設定とその研究成果の公表、の三点を中心に置いた。この三つの計画の完遂を目指して、つぎのよう手順で研究を行った。国内外の史料存在状況を把握することは、これまでの調査によって、ある程度終えているので、主として国内での資料収集・情報収集を行い、また必要な図書を購入した。収集した史料は、徹底的な史料の読解と分析を進めた。なかでも、『中国明朝档案総匯(全101冊)」』は、これまでの研究環境から、刊本を主たる史料としていた研究に、新出の文書を重視しなければならない研究への転換を強いるもので、日本に部分的に伝存している文書史料の解読・分析を手掛かりに中国近世の軍制・政治体制・対外的軍事事件等の問題を追究して来た我々にとっては、これまでに会得したその方法を駆使して、上記の档案の読解と分析に取り込む絶好の機会となった。その結果、異民族間あるいは多地域間の接触・交流における共生と摩擦・相克といった視点から、多国間・多民族間における異民族・異文化の交流、さまざまな世界観・情報の出逢と融合・摩擦の様相の解明に資する研究成果を得た。例えば、川越泰博による中蒙関係に係わる、『モンゴルに拉致された中国皇帝-明英宗の数奇なる運命』(研文出版、2003年9月)、「世襲という名の軛-明英宗親征軍の性格-」(『中央大学文学部紀要』史学科第48号、2004年3月)や日中関係史に関する「明代南京と倭寇(一)」(『明代史研究会創立三十五年記念論集』汲古書院、2003年7月)、「麹祥とその一族-倭寇による被虜人衛所官の世襲問題をめぐって-」(『人文研紀要』第48号、2003年10月)、「『全浙兵制考』の撰者侯継高とその一族」(『明清史論集』国書刊行会、2004年2月)は、新出档案を分析した具体的な成果である。
|