本研究は、従来、研究の蓄積の薄い、中国・朝鮮・日本、もしくは中国・朝鮮・日本・琉球の関係する環シナ海地域、中国・モンゴル・朝鮮の関係する長城地帯などの、三国間、もしくは四国間のような多国間・多民族が関係する大きな広がりを持つ地域としての「接壌地帯」における国・地域相互の物流や人口の往来・移動、交流の基盤となる多民族間の言語問題とそれにともなう一つの有機的な歴史的空間を形成するに至る歴史的経緯について、近現代につながる近世期(14-18世紀)を軸に、多角的な分析を行うことを目的とした。 研究の手順としては、(A)史料の収集整理、(B)収集史料の読解と分析、(C)新視角の設定とその成果を論著にとりまとめる、(D)研究成果の公表の四段階とした。収集した史料は、徹底的な読解と分析を行った。なかでも、『中国明朝档案総匯』(101冊)は、これまでの刊本を主たる史料としてきた研究体制から、新出の档案文書を重視しなければならない研究体制への転換を強いるものであった。我が国に部分的に伝存している文書史料の読解・分析を手掛かりに、従来、中国近世の軍制・政治体制・対外的軍事事件などの問題を追究してきた我々にとっては、上記の档案の読解・分析に取り組むことは、これまでに積み上げてきた分析の方法を駆使する絶好の機会となった。 それによって、「接壌地帯」における、その具体的な様相の摘出、歴史的展開についての分析・研究をさらに深化させた。その具体的成果としては、従来、単なる国家間関係史ではほとんど死角となって欠落していた、たとえば、諜報・情報活動の実態、捕虜人の存在形態、朝貢の内包する諸問題などのを研究の対象としてとりあげて、あらたな鉱脈の開鑿に挑戦し、一定程度の成果をえたのではないかと確信するものである。
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