本年度は、まだ未蒐集の基礎的史料の整備と分析を集中的に行った。具体的には、まず「四部叢刊CD-ROM」、及び「中国地方志集成:浙江府県志輯」を新規購入して、関連史料を蒐集した。また東北大学東洋史資料室において、同施設所蔵の地方志やマイクロフィルムの調査・蒐集を行った。これらの蒐集済み史料は、整理の上、新規購入のノート型パソコンに保存した。次に北宋末期以降に時期的焦点を絞り、祠廟を核とした地域社会に対する、王朝側と在地の知識人層との利害・思惑・認識の相違点を明確にするために、蒐集した当該期の祠廟の記録に見られる言説の解析をした。その作業を通じて、地域社会における祠廟の機能についての考察も深めた。さらに宋朝の賜額・賜号の傾向を時系列的に明らかにし、北宋初から南宋末までの祠廟制・祠廟制策に関する実態の変遷を究明するために『宋会要輯稿』礼「諸祠廟」の記事に見られる賜額・賜号のデータを網羅的かつ精緻に整理・分析した。すでに作業が完了している、賜額・賜号の画期となった北宋時代の神宗朝・徽宗朝に加えて、南宋時代の傾向をつかむために、比較的下賜件数が多かった高宗・孝宗朝の整理・分析を開始した。 以上の成果の一部は、雑誌論文4篇に公表するとともに、年度末にアメリカ合衆国で開催の国際会議、Association for Asian Studies(通称AAS)のAnnual Meeting(年次大会)へペーパー参加し、内外の宋代史研究者によって組織されたパネルにおいて、"Structures of regional society and multiple discourses as revealed in the records of ritual halls and temples"と題する口頭発表用原稿が公にされた。それを通して、宋代史研究の新手法についての国際的学術交流に寄与した。なお、この国際会議への参加準備のために、事前に国内(岡山)で開かれた研究打合せ会議にも出席し、研究発表の内容についての検討をした。
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