研究の最終年度に当たる本年は、まず、三年間で蒐集した資料類を整理し、それらを有効に研究報告に結集することを眼目とする。三年の期間内に、宋代三百年に亘る文集約百種以上を通覧、関係資料を抽出し、A4約300枚が一冊のファイル15冊に分類・整理した。これらは、従来研究代表者が蓄積してきた膨大な資料と相俟ち、現段階ではこの研究分野では、世界的にも追随を許さないものと自負できる。 計画では、本研究は、宋代三百年の司法制度の全体像解明を企図し、最終的には、近い将来、大部な著書を世に問う予定である。時間的に制限のある今回の報告書は、研究課題名に沿って「宋代司法機構の総合的研究」とし、その主要な部分だけを印刷提出するにとどめる。その内容は、地方と中央の司法行政とその機構が中心にならう。まず前近代中国の王朝と大衆の接点である「県」において、刑事犯逮捕・訊問、民事告訴の実態を詳細に叙述する。当時は、現代のような形の裁判は存在せず、また警察組織も未成熟である。そうした中で、犯人逮捕、「獄」と呼ぶ被疑者訊問、自白と拷問などの実態を明らかにする。県の上位の「府州」には、司法官員も増置され、死刑もここで実施できる。上位には、15から24の、「路」と呼ぶ、現在の省に相当する区分があり、州県の司法全体を監督する提点刑獄官が置かれる。一方、中央では、これも時代差がああるが、審刑院・大理寺・刑部などの司法機構があり、疑獄や死刑の再審、大事件の審問に当たる。それらとは独立して御史台は、全国の隠れた司法事件を摘発し、皇帝の名のもとに裁判を行う。大略以上の諸問題の中から、とりあえず、主要部分を抽出印刷して報告書とする積りである。
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