研究概要 |
研究課題「中世ドイツ帝国における歴史意識と帝権理念史の基礎的研究」については,平成14年度は,データの収集,史料の読解を含む基礎的研究を遂行することができた。今年度当初の計画を拡大し,次年度にも継続する作業として,10世紀のオットー朝時代から15世紀の選挙王たちの時代にいたる,約600年間のドイツを中心として,帝国内緒地域における著作,諸種の年代記,編年史,歴史書,叙事詩等の読解を進めた。この過程で新たに究明すべき課題も得られ,当該時代の歴史意識と帝権理念史の研究と並行して,これから派生する研究視点をも得て,研究課題を究明する作業を深化・拡大させつつある。平成15年度に重点的に行うこととする。 今年度(14年度)の研究成果としては,高山博・池上俊一編の『宮廷と広場』という表題の論文集(総頁数344頁)に論文「ミュンヘンの皇帝とマルシリオの『小擁護者』」を発表することができた。これは14世紀の人マルシリオにおいて,主著『平和の擁護者』が提示した一種の共和制擁護の論点が,彼のミュンヘン宮廷亡命生活においてどのようにその末年の著作に「変容」を呈するに至ったかを検証したものである。イタリア人マルシリオに見られる抽象的な帝権理念と,その一方で法政治理論家としての彼における現実的な皇帝統治論との間の微妙な綾にアプローチしたものである。第二に,現在着手しているのが,平成10年度〜12年度の科学研究費補助金による研究成果である『ジギスムントの改革』と時期が重なる,コンスタンツ,バーゼル両公会議の時代における,皇帝・帝国の教会改革に果たす役割に関連するところの,ドイツにおけるnatioの意識とその概念の確立に至る過程の検証と分析である。
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