本年度は、特に戦時下におけるアメリカ人の愛国心の間題について研究し、主として古典的文献や研究書、研究論文を読んだ。研究成果は、アメリカ思想史の文脈の観点からアメリカ文明をめぐる論争を追究する論文「ジョン・ウェインが死んでもアメリカ文明は衰退しない--アメリカ文明衰退論の意味」、および9.11後のアメリカ社会を考察する著書『アメリカの20世紀』の終章において発表した。前者はアメリカ人の愛国心の問題を文明論の観点から広く歴史的に位置づけようと試みたものであるが、そこにはジェンダー、人種、民族による文明観の多様性がみられた。後者は焦点を現在の問題に絞り、インターネット上の論争も取り込んで研究したものであるが、そこでもアメリカ人の愛国心が多様な形で存在することが判明した。しかし、ジェンダー、人種、民族による違いを明らかにするまでには至らなかった。これは次年度の課題である。 さらに、研究進行の中で、第二次大戦下のアメリカ軍と性の問題に関心を持つようになり、二次史料を通して概要をつかむことにつかめた。さらに、科学研究費を利用して、本問題の研究に必要な一次史料を調査するために、アメリカ合衆国の国立文書館でアメリカ軍部の資料を探索した。膨大な資料であり、今回は一部(段ボール箱9箱分)しか閲覧することができなかったが、軍隊のジェンダー観および異人種観の一端を伺い知ることができた。できれば来年度も継続して文書館での資料調査を行いたいと考えている。
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