本年度は、昨年度の研究の過程で関心を強めたアメリカ軍と性の問題を、第二次大戦下から戦後にかけて研究した。そして、論文「アメリカ占領軍向け『慰安施設』に見られるジェンダー・人種・階級の問題-RAAをめぐる一考察」を書いた。そこでは、日本政府の指導下に設立された占領軍向けの買売春施設を通して、日米間の人種的経済的軍事的力関係、日本国内の階級関係、日米両国それぞれに共通した家父長制に基づくジェンダーの関係を明らかにした。これは、瀧田佳子編『太平洋文化の形成とアメリカ(仮題)』(東京大学出版会2004年刊行予定)に掲載される。この研究を発展させ、夏にアメリカ合衆国で、第二次大戦下の元アメリカ人兵士に聞き取り調査をし(本研究費利用)、彼らの戦争観、ジェンダー観を探ることができた。これは、同様のテーマに関する研究のほとんどが、政府やメディアの資料に基づいているなかで新しい試みであり、近い将来、聞き取り調査のサンプル数を大きくし、研究成果をまとめたい。 また、数年来の関心であるアメリカ人の愛国心に関しては、本年度は特に、アメリカ社会を分断してきた文化戦争の観点から追究した。これも、本研究究極の課題である多文化主義の歴史学構築に向けた作業である。さらに、共著『世界の食文化アメリカ』(農文協 2004年4月刊行予定)の半分を書いたが、ここでは食の歴史を通してアメリカ社会におけるジェンダー・人種・民族・階級の関係、特に多文化主義の広がりを示した。また、本書の第二次大戦および戦後に関する章では、本研究の成果を直接用いた。 当初計画していた内容から発展し、結果的には多少テーマがずれたように見えるが、日的はあくまで「多文化主義歴史学の構築」にあり、焦点は戦争とアメリカ社会の関係に置き、多様な側面から研究することによって本質に迫りたいと考えている。
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