ジェンダー、人種・民族、階級の視点から歴史を研究する多文化主義歴史学の構築をめざし、本研究ではその一環としてアメリカ人の戦争観を探ることにした。その中でも特に、9.11直後に見られたアメリカ国民の異常とも言える圧倒的な戦争支持に注目し、1)その根源となっているもの、2)戦争支持の陰に隠れて存在した、反戦も含めたアメリカ人の多様な戦争観、3)さらに戦後処理のために敗戦国に乗り込んだアメリカ占領軍と被占領地の人々との関係についての考察を行った。これらのテーマは、意図したわけではないが、E.H.カーがいうような「現在からの過去への問いかけ」から出てきていることがわかる。 1)については特に、愛国心の源泉を追究し、アメリカ文明の考察を行った。2)では、9.11後のアメリカ人の戦争に対する多様な態度を、第二次大戦時のそれと重ね合わせながら探った。3)は研究進行の過程で浮かび上がってきた問題であり、なかでもアメリカ軍と性の関係に焦点を置き、占領下日本におけるアメリカ兵と性の問題を扱った。 具体的な研究成果(裏面および様式14参照)は、代表的なものをあげると次のとおりである。1)については、論文「ジョン・ウェインが死んでもアメリカ文明は衰退しない--アメリカ文明衰退論の意味」。アメリカ人の愛国心を文明論の観点から広く歴史的にとらえた。2)に関しては、著書『アメリカの20世紀 下』の終章、講演「建国以来続く文化戦争--『愛国心』」などにおいて、愛国心の内容と少数ではあるが堅固な反戦の思想を、第二次大戦下と今日とを比較して考察した。3)では、論文「アメリカ占領軍向け『慰安施設』に見られるジェンダー・人種・階級の問題-RAAをめぐる一考察」。日米間の人種的経済的軍事的力関係、日本国内の階級関係、日米両国それぞれに共通した家父長制に基づくジェンダーの関係を明らかにした。
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