平成15年度は、(1)14年度に収集した史料の分析と中間整理、(2)新たな寛容法制(各種検閲規制の緩和および撤廃と離婚条件の緩和)に関する一次史料の収集と分析、をおこなった。 (1)については、その一部を、日本西洋史学会第53回大会の現代史部会・自由論題発表で報告した。公的空間における男性同性愛行為の非刑事罰化を定めた1967年に改正された「性犯罪法」について、その制定過程と成立理由について報告し、質疑応答をおこなった(論題「1960年代イギリスにおける性犯罪法の成立と『寛容社会』」、愛知県立大学、2003年5月11日)。法律改正の動きはそれ以前からあったが、(1)戦後1950年代にイングランド国教会などのいわゆるエスタブリッシュメントが各種社会問題についてより実態に即した見方をとるようになったこと、(2)1960年代という戦後世代が社会の中核を占めるようになった「豊かな社会」状況の存在、(3)法律改正に積極的であった労働党政権の成立、などを成立理由として指摘した。1970年代に入ってからのそれに対するバックラッシュを考慮し、この寛容法制が1960年代後半という時代の中でのみ成立しえた法律であったこともあわせて指摘した。この報告をもとに、現在同テーマで論文を作成中である。 (2)については、関連議事録の国内での収集分析のほかに、夏季休業期間を利用して渡英し、ロンドンの国立公文書館で政府関係の一次史料収集をおこなった。あわせて、史料的な遺漏がないか網羅的にチェックするとともに、各種寛容法制がウィルソン政権にとってどのような位置を占めたのかについて、より広い文脈から分析するため、閣議議事録のマイクロフィルムを購入し、分析に取り掛かった。
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