研究概要 |
本年度は3カ年計画の最終年にあたり、この2年間進めてきた現地での資料収集・聞き取り調査を継続しつつ、研究のまとめに取り組んだ。今年度の現地調査は、2004年9月2日〜9月27日、リオデジャネイロ、サルヴァドール、ブラジリア、サンパウロの4カ所で行った。以下、年度当初に掲げた研究課題を中心に、調査・研究活動を要約する。 まず、人種的・民族的マイノリティに対する積極的格差是正措置(「アファーマティブ・アクション」)については、主に教育面での進展が著しいことが分かった。2004年3月に行われた中央省庁の改革で、それまで中等教育・技術教育局におかれていた多文化教育推進部門が単独の局(「生涯教育・識字教育・多様性局」SECAD)に昇格し、局長には応用経済研究所(IPEA)所長として人種間の社会経済的格差をめぐる研究を主導してきたリカルド・エンリケス氏が就任した。今回の現地調査では、SECADが連邦区教育局との協賛で開催した「民族的・人種的多様性に関するフォーラム」(2004年9月15-17日,ブラジリア)に参加し、一部をビデオに収録した。 また、これに関連して、ブラジルではアフリカ系児童・生徒の自尊心を養うため、公立学校に「アフリカ系ブラジル文化」の授業が導入されることになったが、その授業を正式な教員免許を有していないアフリカ系舞踊家・武道家(カポエイリスタ)に担当させることの是非をめぐって激しい論争が巻き起こっている。サルバドールでは同地の弁護士会主催のシンポジウムに出席しビデオに収めた。 ブラジルの黒人運動の現状分析と歴史的位置付けについては、政権与党「労働者党」の国会議員を中心とする「人種平等憲章」の制定への活動や、他の南北アメリカの黒人運動・黒人議員との連帯活動が活発となっている。また、一昨年、昨年に引き続き、リオデジャネイロでアブディアス・ド・ナシメント元上院議員にインタビューを行った。また、日程の関係で参加することはできなかったが、国立公文書館の改装完成記念行事として、2004年11月から2005年4月まで「アブディアス・ド・ナシメント生誕90年展」が開催されその経緯の聞き取りと参考資料の収集を行った。 多文化主義と歴史意識の変容については、ジルベルト・フレイレ『大邸宅と奴隷小屋』の日本語を詳しい解説を付して出版した。
|