本研究は、アメリカ合衆国における連邦軍(国軍)とマイノリティ(少数派民族集団)の関係を、ふたつの比較史的視点--すなわちアメリカ国内のマイノリティ間および他国の国軍との比較史的視点--から事例研究および理論的考察を行うことにより、20世紀後半における脱植民地化、シティズンシップ、ナショナリズム、「戦争の記憶」の諸問題に対する歴史研究上の貢献をめざそうとするものである。平成14年度は、研究の第一年度として、とくにコアとなる事例研究であるフィリピン系第二次世界大戦退役軍人のアメリカ合衆国移民問題に関して、米国(2002年8月18日〜9月3日)およびフィリピン(2003年1月5日〜12日)において現地調査を実施した。1990年代に米国市民権を取得した高齢のフィリピン系退役軍人移民の生活支援問題は、米国のフィリピン系アメリカ人コミュニティにおいて重要なエンパワメント・イシューとなっている。そこで、米国ではフィリピン系アメリカ人団体全米連盟(National Federation of Filipino American Associations)の全米会議およびフィリピーノ・グローバル・ネットワーキング・コンファレンスを参与観察し、この問題が9・11事件後のフィリピン系アメリカ人コミュニティの間でどのように文脈化されているのかを調査分析した。また、米国市民権を取得した退役軍人移民の一部(約2000名)は、米国連邦議会がその生活保護手当てをフィリピン在住の場合にも支給する法案を成立させ、この特別措置の実施が開始されたために、フィリピンに「帰国」している。この事情について調査するためにフィリピンを訪問し、合わせてエルピディオ・キリノ大統領文書(アヤラ博物館付属図書館)等で文献調査を実施した。その研究成果を雑誌・図書に発表するとともに、アメリカ史研究者夏季セミナー(2002年9月)において口頭発表した。
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