本研究は、アメリカ合衆国における連邦軍(国軍)とマイノリティ(少数派民族集団)の関係を、アメリカ国内のマイノリティ間および他国の国軍との比較史的視点から事例研究および理論的考察を行うことにより、20世紀後半における脱植民地化、シティズンシップ、ナショナリズム、「戦争の記憶」の諸問題に対する歴史研究上の貢献をめざそうとするものである。 平成15年度は研究の第2年度として、コア事例であるフィリピン系第二次世界大戦退役軍人のアメリカ合衆国への移民問題に関して、フィリピン(2003年8月4日〜15日、9月5日〜9日)およびアメリカ合衆国(2003年11月10日〜19日)において現地調査を実施した。1990年代に米国市民権を取得した高齢のフィリピン系退役軍人移民の生活支援問題は、フィリピン系アメリカ人コミュニティにおいて重要なエンパワメント・イシューとなっている一方、市民権を取得した退役軍人移民の一部(約2000名)は、米国議会で生活保護手当をフィリピン在住の場合にも支給する法案が成立、実施されたために、フィリピンに「帰国」している。これらの問題に関連して米比両国で1次史料の収集およびインタビュー調査を行なった。とくにアメリカでは、ベテランズ・デイ(退役軍人記念日)にアーリントン国立墓地でフィリピン系ベテラン団体が行なった慰霊行事を参与観察した。 次に本研究の成果発表の一環として、大津留智恵子・大芝亮編『アメリカのナショナリズムと市民像』(ミネルヴァ書房)に論文「フィリピーノ・アメリカンの語り方」を発表した。さらに次年度は、他のマイノリティ系ベテラン問題に関してすでに収集した史資料・文献をもとに、これまでの調査結果を分析検討するとともに、国際学会において当該主題に関する研究発表を行い、またウェッブ上においても研究成果を公開するべく準備を進めている。
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