研究課題
基盤研究(C)
1.研究は、アメリカ合衆国(以下、米国)における連邦軍(国軍)とマイノリティ(少数派民族集団)の関係を、米国内のマイノリティ間および他国の国軍との比較史的視点から事例研究および理論的考察を行うことにより、20世紀後半における脱植民地化、シティズンシップ、ナショナリズム、「戦争の記憶」の諸問題に対する歴史研究上の貢献をめざそうとするものである。2.本研究でとくにコア事例として取り組んだのはフィリピーノ第2次世界大戦ベテラン(退役軍人)の米国移民問題であった。実施計画にしたがって研究代表者は米国、フィリピン両国においてベテラン支援運動やベテラン問題に関する史資料調査、面接調査および支援運動関連会議での参与観察等を行った。3.当該期間の研究成果としては、米比両政府間における第2次世界大戦ベテラン問題をめぐる交渉史、帰化訴訟史、ベテラン支援運動の歴史と現在に関する事例研究を行い、その成果を日本語・英語の両語で発表した。この主題は米比両国でも未開拓の分野であり、研究成果は米比両国の研究者に参照されるだけでなく、フィリピン系アメリカ人運動の諸団体関係者の間で広く参照された。研究成果を研究対象にフィードバックすることができたのは幸いであった。4.一方、アメリカ連邦軍とマイノリティの関係をより広い視点から総合的に把握する作業には課題が残された。イラク戦争によって、連邦軍のマイノリティ処遇は、いわゆるグリーンカード(永住権)海兵隊員の問題などで、ますます大きな注目を集めるようになった。ベテラン運動が、戦没者追悼や愛国的行事などの場で政治的表象として果たす役割も研究を通じて痛感した点であった。このような観点から、表象研究を含む、より広い視点からの連邦軍・マイノリティ関係研究の総合化および他国事例との比較研究が今後の課題として残された。
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Japanese Journal of American Studies 16(印刷中)
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