19世紀後半のロシアの絵入り新聞の資料状況について、一橋大学およびヘルシンキの図書館で現物を調査した。また『イリュストリロヴァンナヤ・ガゼタ』(1864-1867年)、『イスクラ』(1859-1873年)、『イリュストリロヴァンウィ・セメイヌィ・リストク』(1859-1863年)をマイクロ・フィッシュのかたちで入手し、分析・整理をすすめた。画像・記事資料の思想的分析のための概念装置に関して、19世紀ロシア美術史の概要を把握するとともに、画家・版画家の社会史的背景を検討し、その成果の一部を学会等で発表し、専門家からレビューを受けた。ロシア史・ロシア思想史の観点から「東アジア」表象のもつ意味について、19世紀前半のロシアにおける東洋学研究の拠点のひとつカザン大学に関する先行研究を検討するとともに、いくつかの一次史料をヘルシンキ大学図書館で入手し、分析をすすめた。 以上の分析の中で明らかになった方法論的視点は、以下の通りである。 1)ロシアでの絵入り新聞の発行の意味は、西欧起源のメディア文化のグローバル化のなかに位置づけて検討する必要がある。 2)「イラスト」という「視覚表象」への読者の需要は、言語では表現できない「新しい知見」が出てきたことと関係している。 3)この「新しい知見」とは、第一にロシアの帝国主義的拡張にともなう知の対象の地理的拡大、第二に、産業革命の諸成果のグローバル化にともない「新しい発明品」等を視覚的に提示する必要性が高まったことを意味している。 以上のような世界史的な文脈を踏まえてロシアにおける「東アジア」表象とメディア制作者(および想定されている読者)の文化アイデンティティとの関連を分析することが次年度の課題である。
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