本研究最終年度の本年度は、4年間の研究活動をとりまとめる1年であったが、まだ充分達成されていない領域の調査をおこなう必要があり、そのために海外調査の目的地をフランスに変更して、短期間であったがパリにおいて調査をおこなった。本研究の実施期間中、ドイツの調査はある程度実施できたが、ローマ帝国下における「都市化」「文化変容」の実態を検討するために必要なガリア北部地方、すなわち現フランスについては、十分実施できていなかったからである。幸い、パリではいわゆる「ケルト学」の権威である高等研究院のP.-I.ランベール教授と意見交換でき、また「ケルト」系文化とローマ帝国との接触に関する考古学的な証拠とされてきた遺物について、パリ近郊の古代博物館などで調査する機会も持ちえた。この調査は、本研究にとりきわめて大きな収穫であった。最終年度の研究においてしっかりと認識できたことは、「ローマ化」と一般に呼ばれている文化の変容現象を、ヨーロッパの近現代史と深い関連をもつ「ローマ化」概念で説明するよりも、ローマ帝国の独自性をふまえて説明する研究の道具立てを考える必要があるということであった。この点に関しては、A.ウォレス=ハドリルやG.ウルフらが近年提唱する「ローマ文化革命」の考え方が、可能性と有効性をもつように現段階では思われる。ともあれ、本研究では、古代社会の実態に関する調査、それを理論的に説明するための研究、そして、従来の歴史叙述や説明の道具立てに対する批判的見直し作業の3つをおこなってきた。すべての分野について同じように満足する研究レヴェルまで達成されたわけではないが、遅れている分野についても、今後に新たな展望を開くところまではできたと考えている。それらを成果報告書にまとめて公表し、学界の批判を受けたい。
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