本研究は、近世ヨーロッパ世界においてフランスがはたした役割の再検討をめざしたもので、とくに近世フランスの商業・交易活動の拠点となった都市に集住する外国人の実態を、第一に居住の形態や交易のネットワークの観点から、第二にフランスの当局者の外国人に対する「まなざし」の観点から考察しようとしたものである。その結果、「科研報告書」に3編の論考を収録することができた。具体的な成果は以下のとおりである。(1)近世フランスにおいて、外国人は「オーバン」と呼ばれたが、そこには、外国人を無権利状態におき、一元的に支配しようとする王権の意図があることが明らかになった。ただし、王権は利益をもたらす外国人に好意的であり、柔軟に対処したので、フランスは数万人規模の外国人が滞在する「帝国」的な存在となった。(2)長期に滞在する外国人のうち、イタリア人とユダヤ人の動向を分析することにより、かれらの移動と定住のさまが当時の「世界経済」の変容に見合ったものであったことを確認し、とくに17世紀にイタリア人が後退したあと、「ディアスポラ」の民であるユダヤ人を媒介とした国際的なネットワークがヨーロッパの「世界経済」をスムーズに機能させるひとつの副次的なシステムになったとの見通しがえられた。(3)近世フランスの都市化について、これまであまり注目されなかった地方都市のうち、行政都市や海港都市の進展の過程を都市計画を含めてあとづけた。もっとも、こうした研究はフランスでも開始されたばかりなので、より総合的に検証の必要がある。今後は、フランスを取り巻くヨーロッパ諸国との「関係史」へと視野を広げ、共同研究を通じてさらに考察を深めたい。
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