本年度は個別研究として、まず16世紀イングランドの10分1税・15分1税の課税問題を取り上げ、中央からの課税要求に対して地方の側がいかに対応したのかを分析した。16世紀後半以降になると、戦費が増大したために、同税の課税負担が増し、しかも地方間で負担率に著しい差が見られたため、議会での反発が強くなった。そのため1同税は624年を最後に廃棄されたことを明らかにした。第二に16世紀の関税政策と公債政策を分析しながら、16世紀半ばにイングランドの国家財政運営の方針が大きく転換していく過程を検討した。当時のイングランド政府は膨大な対外債務を抱えており、そのために外国商人たちに、様々な関税特権を付与することを余儀なくされていた。そこで政府は次第に彼らに対抗するだけの経済力をつけてきたロンドンの富裕な外国貿易商人の財政援助を通じて対外債務を返済し、また同時に外国商人の特権を廃棄し関税収入の増加をはかったのである。これ以降、イングランドの国家財政は国内商人に依存する財政的ナショナリズムの傾向を強めていったことを明らかにした。 また本研究の成果を『16世紀イングランド行財政史研究』と題した著書において公表した。本書は4部、12章構成をとっているが、本年度の研究成果の最初のものは第四部の議会課税問題(第11・12章)、第2の成果は第3部の関税政策(第9章)の中心部分を構成している。
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