研究概要 |
本研究は、ヴァイマル共和国とナチス時代に、医師は医療活動を中心にどのように活動したかを、社会史的に考察することを目的としているが、初年度である本年度は、ヴァイマル時代に、医師、とりわけ女性医師がどのような活動をしたかについて、研究を進めた。その結果、以下のことがわかった。 1.ヴァイマル時代の医師・医学について、優生学や社会衛生学を重視してナチズムとの連続性が語られることが多いが、そしてそれは、基本線において妥当であるが、しかし、個人の健康を重視して、医療の向上を目指すには、社会改革が必要と考えて、医療・保健・住宅の改革などに取り組んだ医師も少なからずいたこと。2,ドイツ医学界においては、19世紀から医師資格をもたない、自然治癒医療が盛んであったが、ヴァイマル時代には、専門教育を受けて、国家試験に合格した医師は、自然治癒医療者との競合意識を強くもっていたこと。3.医学専攻学生のなかで女性は、30%弱であったが、医師のなかでは女性医師は、10%に満たなかった。4.そうしたなかで、女性医師は、1924年に、「ドイツ女性医師同盟」を結成して、男性医師や自然治癒医療者との闘いを意識しつつ、病院における医療活動以外に様々な社会的衛生的活動を展開した。母性・乳児・青少年保護、性病・結核・アルコール中毒との闘いを法的実際的に進めた。5.とくに女性医師が力を注いだのは、避妊知識の普及と避妊具の提供、妊娠中絶を禁止した刑法218条廃止の闘いであった。ここで、彼女たちは、貧しい住環境にあり、夫の性的横暴に苦しむ労働者層の女性に共感して、身体の管理権は個人にある、との考えから力強い運動を展開したのであった。6.これ自体は、ヴァイマル時代に実を結ぶことはなかったが、それ以降のフェミニズム運動に受け継がれていく。
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