研究概要 |
本研究は、11世紀末より15世紀までの北フランス・バポームにおける通過税制度の変容を地域社会の変化と関連させて跡づけることを目標とした。このため本年度は第1段階として、これまで準備してきたバポーム市史関係、及び北フランス中世都市史・同社会経済史関係の文献を体系的に読み、特に地域全域で新たな都市・農村関係ができあがってくる様子を、で域内最大の都市アラスとその付属領域の形状の変化という形でまとめてみた。まさに、バポーム通過税の生成と初期発展の時期とは、地域史的にはアラスが従来ほどの中心地機能を喪朱し、地域外縁部に新たな中小都市が叢生するという時期に相当していたことをこれによって確認した。逆に言えば、バポームにおける通過税徴収機能は、それ以前の時代におけるアラス市場を単一の中心とする地域経済管理システムが崩れた結果によって促進された側面があることを傍証したこどにな。実際中世初期から中期にかけては、アラスの流通税がアラスの都市領=修道院によってきわめて広域的・一元的に管理されていたが、これが12世紀にいたって局小化していった過程が史料から判明した。 他方で、北フランス域内北限に位置したもう一つの大都市サン・トメール市には当時ワインの一大独占的卸売市場が存在したが、バポーム通過税という流通抑制的要因の作動がこの一大市場にいかなるインパクトを与えたのか、この問題についても、夏期休暇中の現地文書館調査で収集した蛇管のバポーム通過税関係紛争文書を活用して、一つの論文を得ている。ただし、これは専らサン・トメール市のワイン卸売市場構造を、都市内生活の実状と関連させて.まとめた点に重きがあり、バポーム通過税問題としてはなお中間成果の域を出ていない。これについては次年度において新たな論稿を予定している。並行して、当初予定していた初年度における関連史料のデータベース化は少しずつ進めている段階であり、平成15年度末には一定の成果を書冊の形にして公にしたいと考えている。 この他特記すべき成果は、一昨年に刊行した自著をもとに、北フランスからフランドル全域を対象とした地域経済論を論じた論文と、同じく自著をめぐって開催された学会主催の合評会での討議結果を,共に小論ながら学術誌に公にしている。
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