本研究は平成15年度においては、サン・トメール市文書館調査を含め、13世紀におけるバポーム通過税の制度的整備の状況とそれをめぐって生じた通過税免除特権の是非をめぐる諸紛争との関係を、サン・トメール市のワイン商業に関する代表的な免除特権状の分析を通して明らかにし、これを論文としてまとめることを行った。この研究では、特に1202年に成文によって制度が定められたはずのバポーム通過税が、その後13世紀を経て当初予期されなかった種々の問題に直面しつつも、その都度当時パリに拠点をおいて裁判権限をフランス王国中に拡大しつつあった高等法院Parlementの判例を挺子として、より厳格な徴収体制へと変貌していく様を明らかにした。また、その過程では、当該通過税の免除特権を当初より獲得していた、あるいは機会を見てはその潜在的権利を主張していた一群の都市の主張が、折々の高等法院の判例に盛り込まれつつその当否が慎重に吟味されるなど、必ず利害集団の主張を均等に見渡し、過去の判例に基づいて裁定が下されていったことも判明する。より具体的には、1270年代にサン・トメール市に対して賦与された新しい部分的免除特権が、むしろその後における諸都市の特権を制限するきっかけになった可能性があることも疑いなくなった。なお、本論文の作成に際しては、昨年度アラス等で収集した未刊行の手写本史料に加えて、9月のサン・トメール市文書館調査で新たに入手した手写本史料群が大きな情報を提供する結果となった。とりわけ、同文書館で、バポーム通過税のこれまで知られていなかった写本の一通を発見することができ、その意味は限りなく大きいものであった。その概略については上記論文でも注の形で略述したが、この写本の歴史的位置づけと内容批判については、平成16年度においてより詳細な史料論的分析を進めていきたい。(778字)
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