図書寮本類聚名義抄は、院政期成立の漢字字書として著名であるが、その全文の解読はいまだなされていなかった。この課題は全文の翻字本文とその注解の作成を試みるものである。当該の文献は、約3700項目よりなる漢字字書であるが、今年度は、翻字本文の作成方法をさまざまに検討し、ひとまず全掲出項目の20%に相当する約730項目の翻字本文を作成した。注解は、どのような方式が適当かの試行錯誤を行い、試みに70項目について注解の本文を作成した。 翻字本文は、なるべく通行の文字に置き換える方針とし、原本の異体字を無理に作字する方針とはしない。にもかかわらず、ワープロ等で表示・印刷できない文字が多いため、今昔文字鏡等のソフトウエアを利用し、それに欠ける文字は画像として取り込んで貼りこむという方針をとることとした。 注解については、どの程度の詳細さで行うかについて検討し、ほぼその方針を固めることができた。主要な出典のうち、重要な資料であるが、逸書であるため、比較の困難であった東宮切韻と真興大般若経音訓とについて、調査研究を進めた。東宮切韻については、出典の採録序列の点から詳細に分析し、篆隷萬象名義よりも下位、玉篇よりも上位という結論を得た。これによって、図書寮本類聚名義抄をめぐって議論が続いてきた採録の序列の問題に終止符を打つことができた。真興大般若経音訓については、その逸文を大量に含む叡山文庫息心抄の原本調査を実施し、逸文の収集と分析につとめた。
|