抄物は日本語研究資料として価値が高く、これを対象とする研究者も近年再び増えて来ている。しかし、現地に赴き、原本を発掘・調査する研究者はほとんどいなくなっている。筆者は40年間全国の寺社・文庫・図書館に現地調査し、1万点にのぼる抄物を発掘・調査して来た。本研究において、筆者は、筆者未調査の抄物の発掘・調査につとめ、既調査抄物と合わせて、その総合目録の完成に努めた。 1、今年度の調査 国立国会図書館・東洋文庫・国立公文書館内閣文庫・宮内庁書陵部・名古屋市立蓬左文庫・京都大学・陽明文庫・高山寺・天理図書館・阪本龍門文庫・高野山霊宝館等において抄物の発掘・調査を行った。特に、閲覧業務が再開された抄物の宝庫の一であるお茶の水図書館の調査に力を注ぎ、写本・古活字版・整版にわたって多くの抄物を調査し得た。 2、資料性の解明 各抄物の、抄者、成立時期、言語研究資料としての性格等の資料性の解明に努めたが、中でも、室町末・江戸初期の交に作成された『蒙求抄』(天理図書館本・宮内庁書陵部本・高野山霊宝館本等)の解明と、『三体詩素隠抄』『中華若木詩抄』等を中心とする古活字版と整版の諸本の整備と諸版の関係の解明とに、大きな成果を得た。後者についてはお茶の水図書館において「出版された抄物-室町時代の話し言葉を探る-」という題で研究発表を行った。 3、今年度の目録の作成 (1)特定の原典に対する抄物、(2)書き入れ仮名抄、(3)特定の原典を持たない一種の抄物、に大きく三分し、目録の作成を進めた。そのうち(1)の漢籍集部の目録を完成し、『訓点語と訓点資料』(2004・9)に発表した。
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