研究計画に従って、平成14(2002)年度は以下のような調査研究を実施した。まず、9月7日から14日並びに11月2日から7日にかけて、沖縄県八重山郡竹富町黒島方言の音韻、活用(動詞、形容詞)、助詞の体系調査を実施した。一部語彙調査も実施した。次に平成15(2003)年3月14日から19日にかけて宮古下地町来間方言について形容詞の活用と助詞の体系調査を実施した。宮古来間方言については、調査の端緒についたばかりで本格的な調査はこれからであるが、八重山黒島方言については今回の調査で音韻体系、用言の活用体系、助詞の用法など、ある程度把握することが出来た。黒島方言の主な特徴を示すと、次のようになる。 1)母音交替現象が見られる。例えば、助詞の[hara](から)は、前接形式の末尾母音が[a]の時は[hara]、[i][e]の時は「hera」、[u][o]の時は[hora]となる。また、共通語との対応関係からすれば、本来[u]となるべきものが[a]となるものもある。[ku「rasu〓](殺す)、[u「dura〓ku〓](驚く)など。 2)[f][v]の音声があらわれるが、[f]は唇歯の特徴が衰退して[Φ]となる場合もある。 [「fuju〜「Φuju](冬)、[「futa〜「Φuta](蓋)。 3)宮古来間方言などで[f]となるものが、黒島方言では[v]なる場合が多い。 [vo「〓〓fo〓](黒い)、[「vi〓ru〓](呉れる)。 4)黒島方言では共通語の「カ」は[ha]となる。[「had〓i](風)、[ha「ta](肩)。また語彙的にごく稀に声門摩擦有声音の[〓]もあらわれる。[「〓a〓](明かり、光)。 5)[v][r]が単独で拍を構成する。[「〓〓〓ha〓](古い)、[「ma〓〓](まわり)。 活用や助詞の用法においても特徴的なものがみられるが、それについては割愛する。
|