1)平曲の譜記から近世京都アクセントの型を認定する場合の問題点について、以下のことを明らかにした。 (1)平曲の譜記から、そこにあらわれる語のアクセント型を認定する場合には、それぞれの表出形によって譜記とアクセントとの対応を考える必要があること。 (2)表出形はa単独形、b従属式助辞接続形、c低接式助辞接続形、d助詞「の」接続形、e1接頭辞「おん」前接形、e2接尾辞「ども」後接形の6種類に分かれること。 (3)平曲譜の場合は、無譜部分の解釈に注意する必要があり、必ずしもアクセントを反映しない「前高低平形」や「低平後高形」はひとまず考察の対象から外す方がよいこと。「特殊低起式表記」にも注意が必要なこと。 2)1拍名詞について、平曲譜本の譜記と近世京都アクセントの型との対応を明らかにした。 (1)1拍名詞a単独形の譜記はアクセントの違いに関わらずみな同じであるが、b従属式助辞接続形からは譜記とアクセントの対応が明らかであること。 (2)c低接式助辞接続形、d助詞「の」接続形、e1接頭辞「おん」接続形からは類別を完全には明らかにできないこと。 (3)e2接尾辞「ども」接続形からは類別判定が可能で、《白声・口説》の範囲では、第一類{上上×/上コ×}、第二類{上××/コ××}、第三類{×上×/×コ×}の対応があること。 3)2拍名詞について、その助詞「の」接続形にアクセントの類別を認定できる面があることを明らかにした。 (1)中世後期以降に類の合同を起こした2拍名詞第二・第三類は、助詞「の」接続形について、およそ第二類HL-L/HH-H:第三類HH-Hという対立が認められること。 (2)同じく第四類LH-L/LH-L:第五類LF-Lであっただろうから、譜記に{×上上/×上コ}とあれば第四類相当であることが明らかになること。
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