初年度にあたる今年は、広域言語地図による言語地理学的研究を次の事象類について行った。 1、以前から手がけていた、『方言文法全国地図』(以下、GAJ)の意志・推量類にあたる数葉の地図、2、これも以前からの、GAJ33・37図類の原因・理由表現の地図の解釈3、2に加えて、仮定条件のGAJ126図「起きれば〜」(仮定1)、132図「起きるなら〜」(仮定2)、167図「降れば〜」(非完了仮定)、168図「降ったら〜」(完了仮定)の条件法のやや体系的な事項を、伝播類型の観点から調査研究した。 伝播の類型は、概して、従来言われているとおりの、新形式は近畿を中心として放射状に広がり、西日本にはこの影響がつよく、東日本には比較的よわく緩慢なこと、東京周辺での新形式、周辺地域での古態性といった様相が明らかとなった。 考察のもう一つの観点である国語史(中央語史)との対照からもこれは言えるが、しかし具体的な形式の由来を探るとそう簡単には言えない。たとえば、上記1の理由の地図で中国・四国地方にあるケン・ケニ・キー類は国語史に現われにくく地域固有と思われ、条件法でも〜ダバ(東北)・ギー(九州)など地方固有の形式がかなり現われてくる。また、似た分布様態でも、1〜3の分野で見ると、事象により形式により、固有の歴史・地域的事情が関与している模様が明らかとなった。 「語はそれ自身固有の歴史をもつ」という定式に似た模様が文法形式でも認められる。 目下の問題は、巨視的な全国的の伝播類型と微視的な地域方言の趨勢の中で関与づけられる諸形式との整合的な解釈をどうつけるかである。
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